建築設備士とは?
建築設備士とはどんな資格なのでしょうか。 建築設備士の概要、建築設備士と建築士の違いなどについて以下に説明します。
建築設備士は国家資格
建築設備士は、建築士法に基づく国家資格です。
建築設備とは、空調、給排水、電気など、生活や建物の利用において必要な機能を満たすために建築に備え付ける設備のことを指します。建築設備士の資格は、これらの建築設備全般に関する知識・技能を持っている証明になります。
建築設備士制度は、建築設備の複雑化、高度化に対応するために、1983年に作られました。建築設備士は、高度で複雑な建築設備の設計・工事監理について建築士に対して助言を行うことができます。建築士は、建築設備の設計・工事監理に関して建築設備士のアドバイスを受けた場合、建築確認申請書などの書類でその旨を記載する義務があります。
建築設備士と建築士の違い
建築設備士と建築士は、建築に関する知識を有する建築専門職であることは共通していますが、それぞれ担当する業務が異なります。
建築士は、建築の設計、工事管理を直接実施して、建築全体の統括を行います。一方で、建築設備士は、直接建物の設計は行いません。建築設備士は、建物の設備設計において建築士から助言を求められた際に、適切なアドバイスを行い、建物の安全性を確保する責務を担います。
建築設備士は役立つ?いらない?
建築士に設計設備に関する助言を行える建築設備士の資格は、実際にどのように役に立つのでしょうか。建築設備士の資格を取得することのメリット、建築設備士の待遇などの観点から説明します。
建築設備士のメリット
建築士へのステップアップも可能
建築設備士は、建築士など他の建築関係職へのステップアップが しやすいというメリットがあります。
建築設備士の資格を持っていると、実務経験や学歴を問わず2級建築士、木造建築士の受験資格が得られます。
建築設備士として4年以上の実務経験があれば、1級建築士の受験資格も得られます。さらに、建築設備士を取得した後1級建築士の資格を取得し、1級建築士の上位資格である 設備設計1級建築士を目指す場合には、実務経験の中に建築設備士としての勤務年数を含めることができます。
このように、建築設備士の資格により、各種建築士試験の受験資格が得やすくなるため、将来のキャリアの構築が有利になります。
参考:公益財団法人 建築技術教育普及センター
「建築士(制度全般)-受験資格-」より
建築設備の専門家として信頼を得られる
建築設備は、安全、快適に建物を使用するために大変重要なものです。また、大型建築になると設備設計も複雑かつ高度なものが求められます。
適切な設備設計・施工管理を確実に行うためには、複数の建築専門家の目が入ることが肝要です。建築設備全般に対する知識、技術によって建築士に助言できる建築設備士は、大変重宝されます。
建設会社、設備メーカーなどの中には、建築設備士に対して2万~10万円程度の資格手当を支給している会社が多くあり、待遇上のメリットも大きいと言えます。
建築設備士の年収
建築設備士の平均年収は500~700万円 と言われています。年収の幅は、所属する企業の規模や業態による差によるところが大きいです。大企業や元請けを行う会社の場合、年収は高めとなり、規模の小さい企業や下請けの会社の場合年収が低めになる傾向があります。
所属組織などによる年収の差はあるにせよ、建築設備士の年収は、日本の給与所得者の平均年収433 万※と比較して、高めであると言えます(※令和3年国税庁の民間給与実態調査統計 より)。
建築設備士の資格を取っても意味がない?
すでに述べた通り、建築設備士の資格は、ニーズも高く、待遇面でもメリットが十分あります。さらに建築設備士の資格を持っていると、業務で得た知識を活かせること、建築士の受験資格を得やすくなることから、建築士へのステップアップもしやすくなります。
建築業界で将来にわたって活躍したい方、社会的ニーズの高い仕事に就きたい方にとって、建築設備士の資格は大いに意義があります。
「建築設備士の資格は役立つか?必要ないか?」という問いの答えとしては、「役立つ」と言って良いでしょう。
建築設備士になるには?
建築設備士になるには、建築設備士試験に合格する必要があります。建築設備士試験は、公益財団法人建築技術教育普及センターが行っています。
建築設備士の試験内容
建築設備士の受験について知っておくべき試験の概要について以下に説明します。
受験資格
建築設備士の受験資格は、学歴または建築関連資格を取得の上、所定の実務経験を積むことで得られます。
学歴要件を満たすには、各種学校を卒業して、建築、機械、電気またはこれらと同様と認められる類似の過程を修了している必要があります。
必要となる実務経験年数は、卒業した学校の種類により異なります。大学の場合は卒業後2年以上、短期大学、高等専門学校の場合は卒業後4年以上、高等学校の場合は卒業後6年以上の実務経験が必要です。
1級建築士、1級電気工事施工管理技士、1級管工事施工管理技士、空気調和・衛生工学会設備士、電気主任技術者(第1級、第2級、第3級)の有資格者は、2年以上の実務経験を積むと建築設備士の受験資格が得られます。
なお、学歴、資格要件に該当せず、実務経験のみで受験資格を得る場合は、9年以上の実務経験が必要です。
出題内容
一次試験は、建築の一般知識、建築法規、建築設備について出題されます。
二次試験は、建築設備基本計画、建築設備設計について出題されます。
試験の構成、問題数、制限時間
建築設備士試験は、一次試験(学科試験)、二次試験(設計製図試験)で構成されています。
一次試験の試験科目は、建築一般知識、建築法規、建築設備の3科目です。
四肢択一のマークシート方式で、建築一般知識が27問、建築法規が18問、建築設備が60問の計105問です。制限時間は、建築一般知識、建築法規が2時間30分で、建築設備が3時間30分です。
建築設備士試験の二次試験は設計製図試験です。
二次試験は、建築設備基本計画が11問、建築設備設計が5問出題され、制限時間が5時間30分です。
建築設備士の難易度、合格率
令和4年の建築設備士一次試験合格率は、31.4%で、二次試験合格率は46.4%です。建築設備士試験の一次試験合格率は、例年30%前後で推移しており、二次試験合格率は、例年50%前後で推移しています。総合合格率は例年15~20%となっています。
独占業務のない建築技術職としては、合格率はかなり低く、取得が難しい資格であると言えます。
学科試験の内容も、1級建築士と比べて、科目数は少ないものの、建築設備分野の出題は、特に専門的で難易度が高いと言われています。
建築設備士の働き方
建築設備士は実際にどのような仕事をし、どのような働き方をするのでしょうか。建築設備士の仕事内容、建築設備士の主な就職先について説明します。
建築設備士の仕事内容
建築設備設計、工事監理への助言
建築設備士は、建設設備全般に関する知識を有しているため、建築士から建築設備の設計、施工管理について助言を求められた際に、意見を述べることができます。建築設備設計、施工管理を行う際に、建築士は建築設備士からの助言を受ける法的義務はなく、 建築設備士の介入がなくても設備設計や施工管理を行うことは可能です。
建築設備士は、法的な独占業務がないため 社会的ニーズが少ないかと言うとそんなことはありません。 建物の安全性への要請は年々高まっており、それに伴い建築設備士のニーズも高まっています。また、2015年の改正建築法で、建築士が延べ面積2000m2を超える建築物の建築設備を設計する際に、建築設備士の意見を聴くことが努力義務となりました。
建築設備の計画・設計、工事監理
一定規模以上の建物の設計は建築士の独占業務のため、建築設備士は建物の設計をすることはありません。しかし、建築士の指示のもと、設備部分の計画、設計を行うことはあります。また、設備設計に関する図面確認や打ち合わせ、建築設備が設計の通りに行われているか工事現場で確認を行うこともあります。
建築設備士の主な就職先
建築設備士が活躍するフィールドは多岐に渡ります。建築整備士の主な就職先として、以下のような企業が挙げられます。
建設会社
大手建設会社では、ビルなどの大型建築を扱うことが多くあります。大型建築の場合、建築設備設計も高度化・複雑化する傾向があるため、建築設備設計・施工について助言を行える建築設備士が大変重宝されます。
設計事務所
設計事務所は、大手から小規模事務所まで幅広くあります。建築設備士が建築設備のエキスパートとして事務所内で適切な助言や情報提供、施工管理で貢献すれば、建物の安全性が担保され、所属建築士がそれぞれの得意分野や独占業務により注力できます。建築士と建築設備士のチームワークにより、建物のクオリティを高められるやりがいがあります。
設備メーカー
建築設備の知識を活かして、建築設備を専門で作るメーカーに就職する道もあります。建築全体ではなく設備に特化している分、より専門性を活かして働ける面白みがあります。
不動産会社
不動産会社、ビル管理会社、保全会社でも建築設備士が求められています。不動産の管理、保全において、空調や水道などの建築設備のメンテナンスは大きなウエイトを占めます。建築設備士としての知識があれば、物件の設備の管理も適切に行えます。
まとめ
本記事では、建築設備士の仕事、建築設備士になる方法、建築設備士の試験内容、建築設備士の働き方などについて説明しました。
建築設備士は、 建築士に建築設備について助言が行える建築設備のエキスパートです。建築設備の複雑化、高度化は、年々進んでおり、 建築設備の安全性に対する社会的要請も年々高まってきています。 この流れを受けて、建築設備士の需要は今後も高まっていくことが期待されます。
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