建築設備士になる方法
建築設備士になるには、どのようなプロセスを踏めば良いのでしょうか。建築設備士になる方法を以下に説明いたします。
1.受験資格を得る
建築設備士試験の受験資格を得るには、所定の条件をクリアする必要があります。 建築設備士試験の受験資格を得るためには、学校で専門分野を学んで卒業、または建築関係の資格を取得した後に、実務経験を積む方法と、 学歴や資格なしで実務経験のみを積む方法があります。
2.建築設備士試験に合格する
建築設備士試験の受験資格を得た後は、建築設備士試験に合格すれば、建築設備士になれます。建築設備士試験は、以下の2つの試験で構成されています。
一次試験(学科試験)
建築設備士試験の一次試験は学科試験です。 試験科目は建築般知識、建築法規、建築設備の3科目です。四肢択一のマークシート方式で、建築一般知識が27問、建築法規が18問、建築設備が60問の計105問です。制限時間は、建築一般知識、建築法規が2時間30分で、建築設備が3時間30分です。
二次試験(設計製図試験)
二次試験は設計製図試験です。二次試験は、建築設備基本計画、建築設備設計で構成されています。建築設備基本計画が11問、建築設備設計が5問出題され、制限時間は5時間30分です。建築設備基本計画は、文章形式で回答します。建築設備設計は、2問が選択問題、3問が共通問題です。選択問題は、空調・換気設備、給排水衛生設備、電気設備から選択します。共通問題は、空調・換気設備、給排水衛生設備、電気設備に関する製図が1題ずつ出題されます。
建築設備士の講習
建築設備士の更新講習は平成15年の法改正によりなくなりました。更新講習があった時は建築設備士の資格には5年の有効期間がありましたが、更新講習廃止後は資格が無期限となりました。
1級建築士、2級建築士は3年ごとの定期講習が義務付けられていますが、建築設備士には受講を義務付けられた定期講習などは特にありません。
建築設備士の受験資格とは?
建築設備士の受験資格とは具体的にどのようなものなのでしょうか。建築設備士の受験資格について詳しく説明します。
実務経験
建築設備士の受験資格を得るには、実務経験が必要です。受験資格を得るために必要な実務経験の年数は、学歴、建築系資格の有無によって異なります。建築設備士の受験資格は、学歴または建築関連資格を取得の上、所定の実務経験を積むことで得られます。
まず、学歴要件を満たすには、各種学校を卒業し、建築、機械、電気またはこれらと同様と認められる類似の過程を修了している必要があります。
必要となる実務経験年数は、卒業する学校の種類により異なります。大学の場合は卒業後2年以上、短期大学、高等専門学校の場合は卒業後4年以上、高等学校の場合は卒業後6年以上の実務経験が必要です。
1級建築士、1級電気工事施工管理技士、1級管工事施工管理技士、空気調和・衛生工学会設備士、電気主任技術者(第1級、第2級、第3級)の有資格者は、2年以上の実務経験を積むと建築設備士の受験資格が得られます。
学歴、資格要件に該当せず、実務経験のみで受験資格を得る場合は、9年以上の実務経験が必要です。
実務経験は自己申告制
実務経験の申告方法について説明します。初めて建築設備士を受験する方は、受験申込の時に実務経歴について所定のフォームに入力し、必要な場合は実務経験内容補足説明書を提出します。
建築設備士試験の実務経験は自己申告制で、建築士試験の実務経験のように、第3者の証明を記した書類は必要ありません。
実務経験として認められる業務とは?
実務経験として認められる業務は、公益財団法人 建築技術教育普及センターのホームページに詳しく記載があります。
実務経験として認められるのは、建築設備に関わる業務です。実務経験に該当する業務の例を以下に紹介します。
- ・建築設備の設計、建設設備の工事監理・施工管理、積算
勤務先:設計事務所、設備工事会社、建設会社、設備機器製造会社など - ・建築設備の保全および改修
勤務先:不動産会社、ビルメンテナンス会社など - ・建築設備の行政、修繕計画
勤務先:官公庁 - ・建築設備に関する教育
勤務先:大学、教育機関など - ・建築設備に関する研究
勤務先:大学院、研究所など
なお、建築物の設計・工事監理、施工管理を行っていても建築設備に直接携わっていない場合、トレース、機器類の運転、計器類の記録など作業員としての業務にとどまる場合は実務経験に該当しません。
建築設備士の受験資格の注意点やよくある質問
建築設備士試験の受験資格で注意すべき点、よくある疑問点について以下に解説します。
実務経験は自己申告?虚偽があると処分を受けることがある?
すでに述べた通り、建築設備士試験では受験申込の時に所定のフォームに実務経歴を入力、必要に応じて実務経験補足説明書を提出します。建築士試験のように実務経験を第3者によって証明する書類の提出は必要ないため、建築設備士の実務経験は、受験者の申告に委ねられる自己申告制であると言えます。
実務経験の虚偽により処分されたケースは現在のところありません。しかし、実務経歴のフォームでの入力、実務経験補足説明書などで詳細な記載を求められるため、試験実施機関が調べたらすぐに虚偽が発覚してしまうでしょう。また、仮に虚偽の実務経験で建築設備士試験を受験し、資格を取得したとしても、スキル不足で建築関係者から疑われたり、肩身の狭い思いをして本人が困る結果になったりするため、実務経験に虚偽の内容を書くことは現実的ではありません。
ビルメンテナンス業は実務経験に入る?
ビルメンテナンス業が実務経験に入るかは、ビルメンテナンス業で行った業務内容がどのようなものかによって変わってきます。公益財団法人 建築技術教育普及センターのホームページに記載されている実務経験に、「維持管理会社等での建築設備の維持管理(保全、改修を伴うものに限る)」という文言があるため、建築設備の保全、改修にあたる業務を行っていれば、実務経験に入ると考えて良いでしょう。
建築関連部署でも実務経験に該当する業務をしていないとカウントされない
建築関連の会社、部署でも、建築設備に直接関わっていない場合は、実務経験に入りません。建築士の場合は、建築の施工管理が実務経験に含まれますが、建築設備士の場合は建築設備に関する施工管理を行っていない場合は実務経験に入らないので注意しましょう。また、機器類の運転やトレースなどは建築設備業務ではなく作業員的な補助業務とみなされて実務経験に含まれないことにも注意が必要です。
学歴証明のために卒業証明書が必要
建築、機械、電気等の学歴で建築設備士試験を受験する場合、学歴証明のために卒業証明書が必要です。卒業証明書を入手するには、卒業した学校に発行を申請する必要があります。卒業証明書が発行されるまでに、期間がかかることがあるため、建築設備士試験の出願に間に合わなくなることがないよう、遅滞なく手続きをしましょう。
実務経験がない場合どうする?
建築設備士試験は、建築士試験と異なり実務経験を勤務先が証明する厳密な実務経験証明書は必要ありません。ただし、初回の受験申込の時に所定のフォームに実務経歴を入力、必要に応じて実務経験補足説明書を提出する必要があります。
建築設備士試験は、どのような資格保持者、学歴であっても、実務経験が必要です。実務経験がない場合、願書の実務経験欄を書くことができないため、受験資格が得られません。まずは建築設備の経験ができる職場や研究機関に所属し、建築設備の経験を積む準備をすることから始めましょう。
建築設備士の資格を取得するメリット
建築設備士の資格を取得すると、さまざまなメリットがあります。建築設備士資格取得の代表的なメリットを以下に説明します。
国家資格であるため高い信頼を得られる
建築設備士は、建築設備の複雑化、高度化に伴い、建築設備の安全性や品質を担保するために1983年に創設された国家資格です。
建築設備士は、国土交通大臣の定める要件を満たし、国土交通大臣の登録を受けた機関による試験に合格することで取得できます。そして、総合合格率が15~20%と、難易度の高い資格です。建築設備士は、難易度の高い試験を通過した高度な専門性を持つ国家資格保持者として、厚い信頼を得られます。
建築設備は、安全、快適に建物を使用するために大変重要なものです。また、大型建築になると設備設計も複雑かつ高度なものが求められます。適切な設備設計・施工管理を確実に行うためには、複数の建築専門家の目が入ることが肝要です。建築設備全般に対する知識、技術を活用して建築士にアドバイスできる建築設備士は、大変重宝されます。
高い年収で働けるチャンスがある
建築設備士の平均年収は、500万から700万円程度と言われています。建築設備士は、建築系の会社などで、資格手当の対象となっていることがあります。資格手当は、2万円程度から10万円程度にも上ることがあります。毎月数万円の資格手当を得られるのは、決して無視できないメリットです。 建築設備士は、建築士における設計業務のよう法律上の独占業務はありませんが、 金銭面の優遇度は高いと言えます。
また、建築設備士は、大きなお金が動くような大型建築の建築設備のアドバイザーとしても高い需要があります。売り上げの大きい案件を多く持っている大手建設会社などの組織に属すれば、高い年収が望めます。
建築設備士は、建築設備の専門家として、建設会社、設計事務所、設備機器メーカー等の他にも、不動産会社、ビルメンテナンス会社などでも求人があります。活躍の場を多くの選択肢から選べるため、条件の良い職場に出会うチャンスも多いと言えます。
1級建築士などへのステップアップが狙える
建築設備士は、建築士など他の建築関係職へのステップアップが しやすいというメリットがあります。建築設備士の資格を持っていると、実務経験や学歴を問わず2級建築士、木造建築士の受験資格が得られます。
また、建築士法の改正(令和2年3月31日施行)に伴い、受験する際の要件となっていた実務の経験が免許登録の要件となり、建築設備士であれば1級建築士を受験することができます(1級建築士の免許登録には、建築設備士としての実務経験が4年以上必要になります)。さらに、 建築設備士を取得した後、1級建築士の資格を取得して、1級建築士の上位資格である 設備設計1級建築士を目指す場合には、実務経験の中に建築設備士としての勤務年数を含めることができます。
このように、 建築設備士の資格により、各種建築士試験の受験資格が得やすくなるため、将来のキャリアの構築が有利になります。
まとめ
本記事では、建築設備士試験の受験資格、実務経験の申告方法、必要な実務経験の内容、実務経験申告時の注意点などについて説明しました。
※建築設備士試験の受験資格は、卒業する学校により必要な実務経験年数が違うなど細かいルールがあります。詳細は試験実施機関である建築技術教育普及センターの情報を参照ください。
建築設備士は、学歴または建築系資格に加えて実務経験も必要なため、受験資格を得るのは簡単ではありませんが、取得すれば建築業界でのキャリアの選択肢が広がります。建築設備士試験を確実に突破したい方は、日建学院の講座をぜひチェックしてみてください。